東京高等裁判所 昭和28年(ネ)397号 判決
生命保険会社はその目的たる保険事業に属する行為は勿論その事業遂行に必要なる行為をも為す権能を有するものであつて、会社財産の利用増殖を計る方法として手形の割引を為すが如きことも、会社の事業遂行に必要なるものとして、その権利能力の範囲に属すべきことは多く疑を容れない。保険業法施行規則第十八条は保険会社の財産利用の方法を厳に限定して、無担保貸付に類する行為はこれを為し得ざるものと定めているけれども、これは事業の高度の公共性に鑑み、会社の資産内容の健全強化を計らんが為めの業務監督上の規定たるにすぎず、会社当局者がこれに違反する財産運用を為すときは主務大臣より法令違反の責を問われることあるは格別、その私法上の効力の発生には何等影響なきものと解すべきである。被控訴会社は本件手形割引に当り、仲介者たる高梨博司をして同人所有の不動産に抵当権を設定せしめ、これが登記に必要なる一切の書類を差入れしめて置きながら、その登記手続を完了していないので(原審証人高梨博司の証言参照)、登記未了の間に若し該不動産の所有権が他に移転するときは抵当権を失い結局無担保にて手形割引をしたと同一の結果に帰着する恐はあるけれども、被控訴会社が現にその登記手続をしていないからとて本件手形の取得そのものが法律上無効となるべきいわれはあり得ないのである。それ故控訴人のこの点に関する抗弁は到底採用の限りでない。